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イノベーターの一族・序 

静かで落ち着いた空気。
室内はクラシックと言われる音楽が微かに流れている。
鏡のように磨きあげられたマホガニーの机を前に、
深い緑のビロード張りのソファに腰かけ、
白磁のティーカッブを持ち上げたリボンズの動きが止まった。
廊下からなにやら騒がしい気配がする。
耳を凝らせばそれは足音で、どんどんこの部屋へと近付いてくる。
リボンズは右手の扉を見やった。
厚い扉に隔てられ、防音はしっかりしている筈なのだが、
廊下の天井が高いことに加え床が大理石のため音はよく響いた。

全く誰だろう。

リボンズはため息を吐いた。
人類を導くイノベーターとして、
ふさわしい行動を取れと、皆には常に言い含めてある。
何があっても、冷静に優雅に、そして品よく。
なのにどうだろう、この騒々しい足音。
全くそれとかけ離れているではないか。
後で一言いってやらねば、そう思った矢先だった。
「リボンズ!」
声とともに装飾を施されたオーク材の扉が勢いよく両面に開かれ、
二人の人物が入ってきた。
一人は自分と同じ顔の女性体、ヒリング・ケア。
もう一人はリヴァイヴ・リヴァインだった。

「騒々しいね、ヒリング。何事だい?」

ティーカッブをソーサーに戻し、
リボンズが座ったまま二人に体をむける。

「刹那を人間社会に出すってホントなの!?リボンズ」

ヒリングがリボンズの正面にまわり込み、
マホガニーの机に両手を付いた。
勢いでカップがかしゃん、と悲鳴をあげる。

「耳が早いね」

内心舌打ちしたい心境だったが、リボンズは表面は穏やかに微笑んでいった。

「ティエリアから聞いたのよ。自分が通ってる学校に刹那が来るって」

本気、なんですか?」