sample 25

TOP SECRET LOVE

  

ベッドで眠っていたニールは、目を開けた。

ぼんやりとした意識の中、何時だろうかとデジタル時計に首を巡らす。

三時を少し回った時刻。
朝までに一眠りどころか二眠りはできる。
なんでこんな時間に目が覚めたのだろうか。

撮りためたままの海外ドラマをまとめて観たので、床についたのは一時くらいだ。
一旦寝ついたら四、五時間は起きない。
そんな自分が珍しいと思っていたら、理由はすぐにわかった。

隣りに人の温もりがあった。

キングサイズのベッドに、少し離れて休んでいる。
それが誰かなど考えるまでもない。

ニールの顔が自然に綻ぶ。
小さく名前を呟くとこちらに顔を向けていた、刹那の目が開いた。

暗闇の中でもはっきり視線があう。
《マジックアイ》の異称を持つ、強い輝きを秘めた瞳だ。

「起こしてしまったか」

固い印象を与える声だった。
ここでいつも聞く寝起きの声ではない。
ニールは刹那が横になったのはついさっきだと分かった。

「大丈夫だ」

横になったまま、刹那の腕をとって引っ張り胸に抱き寄せると、
甘えるようにすり寄ってきた。

「終わったのか」

「ああ」

素っ気ないほど短い返事をした後、
思い出したように「あとは編集だけだ」と付け加えた。

それ以外は何も言わない、必要以上のことは話さない。
実に刹那らしい物言いだ。
自分相手でも変わらない刹那に秘かに笑うと、
ニールは「お帰り」と癖のある髪をなでた。

すると刹那が腕の中からニールを見あげてきた。
薄く開いた唇に啄むようなキスを落とすと、刹那の身体から力が抜けた。

離れた唇から安堵にも似た息を深く吐き、
ニールの胸に頭をくっつけてくる。

「お疲れさん」

ニールが労うと、刹那はこくりと頷いた。
何度か身じろいで眠る体勢を整える。

「お休み、ニール」

「おやすみ」

額にキスをしてやる。
それが合図のように刹那は身動きをやめた。

すぐに寝息が聞こえてきた。

何も言わないが、疲れていたのだろう。
撮影は相当な強行軍ですすめられていた事は知っていた。

このベッドが一番安らいで眠れる。

いつだったか、刹那がそんな話をしたことを思い出した。

ベッドではなく、自分の傍が一番安らげる意味だと、ニールは知っている。
だから、自分の家ではなくこっちに帰ってきたわけだ。

(素直に言えばいいのに)

ただし、そんなことを言われたら、
さっきのキス程度で済んだかは怪しいが。

ニールは笑みを苦笑に変えると、寝直すべく目を閉じた。
しかし、刹那のようにすぐは眠れなかった。

逆に目が覚めてしまったらしい。

ニールは、刹那を起こさないように気を付けながら、肘枕で上体を起こす。

刹那は気持ち良さそうな顔で眠っている。
規則正しい寝息にあわせて、微かに上下する肩。

こうして刹那の寝顔を見ているのも悪くない。

反対側に首を巡らし、もう一度時計の表示に目をやった。
時刻と日付の下、小さく灯る今年の表示。

あれから九年が経とうとしている。

ニールは、刹那の髪を優しく梳きながら、初めて会った時を思い出していた。