assortment 「WORLD」TOPSECRETLOVE番外
仕事を終えたニールは、マンションのエントランスを入った。
高い天井のフロアが大理石の床を歩く靴音を響かせる。
一角の管理室から24時間在駐の警備員が出て来て挨拶してきた。
愛想よく応えたあと、奧のエレベーターホールへ向かった。
疲れていても人目があれば、条件反射のように笑顔を向けてしまう。
因果な職業を選んだことを苦々しく思いながら、エレベーターに乗り込んだ。
ずらりと並ぶフロアボタンの下には鍵穴がある。
そこに鍵を差し込み35階のボタンを押した。
このマンションはセキュリティーにも力を入れている為、
こうしなければ動かない仕組みである。
エレベーターはすぐに上昇を始めた。
「ふぅ」
四角い箱の中、ため息と共に漏れた声を聞く者は自分だけ。
家に帰るのはいつ以来だろうと天上の灯りを見上げながら考えた。
かれこれ二週間は経っていた。
精力的と言えば聞こえはいいが、
実際はなりふり構わぬと言える仕事のつめこみ方をしている。
細いみかけに反して体力には自信はあるが、さすがに疲れはたまっていた。
幸い顔には出ていないが。
背面に填め込まれた鏡に振り向き、
しげしげと眺めている内にエレベーターは停まった。
チン、と小さく音が鳴り扉が開く。
鍵を抜き取り通路を歩きだした。ホール右手の奥がニールの自宅である。
ふと足を止めた。
今日は何日だったか。
ニールはくるりと反転しホールに戻った。
今日は刹那も家に戻っているはずだ。時間的にも帰宅しているだろう。
刹那の顔を見れば疲れもふっ飛ぶ。
暫くぶりの恋人の顔を見るべく、再びエレベーターに乗り込んだ。
刹那の家は8フロア下にあった。
お互いの家の鍵は渡しあっている。鍵は車のようにかざすだけで扉が開く。
ニールはなんの遠慮もなく鍵を開け、自宅に帰るような気安さで中に入った。
刹那の家は自分の家に比べると大分小さい。
右手にリビングに繋がるドアがあり、
入ると右側がシステムキッチン、奥がダイニング兼リビング。
リビングは左に折れ曲がる造りで
移動式パーティションの隣が寝室になっている1LDKだった。
廊下とリビングの間のドアは開いている。
そっと中を覗うと刹那はソファに座っていた。
ローテーブルにノートを広げ、ペンを顎に当てて何やら思案顔である。
ニールの頬は自然に緩んだ。
そのまま抱きしめようと近づきかけ、思い出したように横の壁を指で叩いた。
刹那がはっとしたように顔をあげた。
「よぉ、久しぶり」
軽く手をあげるニールに、刹那は驚いた表情で「戻ったのか」と尋ねた。
「ああ、ようやくね」
「真っ直ぐここに来たのか」
「部屋に帰っても寝るだけだ。なら刹那の側がいい」
笑いかけて足を踏み出す。
それを合図にしたかのように刹那が立ち上がった。
互いに腕を伸ばして、抱擁を交わす。
温もりを感じながら見つめあった顔がどちらともなく近づいていった。
「・・・インターフォンが鳴らなかった」
キスの後刹那が言った。
「悪い…忘れてた」
合鍵を持っていても、
どちらかの部屋を訪ねる時はインターフォンを鳴らす約束を思い出しニールは謝った。
「次はちゃんと鳴らせ」
額を合わせたまま、小さく顔をしかめて刹那は言った。
「了解」
本気で怒っていないことは分かっている。
それが証拠にこつんと額をぶつけて頷けば、刹那は笑って体を離した。