sample 21
美味しい秘密
虎徹がトレーニングルームに入ると、
広い室内にはドラゴンキッドとブルーローズ、そしてネイサンしかいなかった。
彼女たちはウェアに着替えているものの、
器械を動かすわけでもなく、ベンチに陣取って、なにやら楽しげに話をしていた。
虎徹に気がついたネイサンが
「タイガー、ちょっと来て」と声を張り上げた。
実のところ、3人の様子に興味津々だった虎徹だが、
女性陣の話の中にずけずけ入るほど、図々しくはない。
呼ばれたのを幸いに、いそいそと近づいた。
「なに話してたんだ、お前ら。結構楽しそうじゃないか」
「タイガー、これ見て」
ドラゴンキッドが、手に持っていた雑誌を眼前にかざしてきた。
シュテルンページという、情報誌だ。
イベントやコンサート、新着の服やアクセサリー、新しくオープンする店など、
様々な情報が掲載されている。
もちろん自分たちヒーローに関しても毎回ページが割かれていた。
ドラゴンキッドが見せてきたのは、フード関連のページだった。
見開き一面に、菓子の写真がでかでかと写っている。
白いクリームがスポンジ生地に挟まれた、マカロンのような形をしていた。
『天使のスフレ』と銘がうってある。
「なんだよ、これ」
「すごいんだよ、いま一番人気のスイーツなんだ」
虎徹は、どれどれと活字に目を走らせた。
『さっぱりした甘さ、口どけは雪を含んだよう。
にまろやかで軽いクリームを、ふわりとした生地に包んだこれは、
一度は口にして欲しい極上の味わい。
数量限定だからこそ可能なその味は、食べたら病み付きになることうけあい。
さあ急いで』
「へー、美味そうじゃんか」
雑誌を受け取り、一通り読んだ虎徹が、感心して言った。
この手の生地にありがちな、美辞麗句を並べ立てる文章だが、
写真の菓子は確かに美味そうだった。
「もしかして、食べたいのか。ドラゴンキッド」
「うん」
ドラゴンキッドは頷いた。