買い物に行こう・1
定時に出勤し、自分のデスクで簡単な事務作業を終えたあと、
午後からトレーニングルームに移る。
そこで自分のネクスト能力に合わせたプログラムに沿って、体を動かす。
これが事件が無いときの、大抵のスケジュールだ。
いつものように、
そのメニューをこなしていたバーナビーの側に、虎徹が立った。
「お前さ、洋服とかいつもどこで買ってんの?」
バーナビーは器械を動かす手を止めた。
「服……ですか?」
意外な思いで、虎徹を見あげた。
一回り以上も年の離れた、この男とコンビを組むようになってどれくらい経つのか。
同じネクスト能力をもつ虎徹だが、性格、考え方、行動は正反対だ。
バーナビーが気にすることを虎徹は気にしないし、
虎徹が拘ることは、バーナビーにとってはそれほど重要ではなかったりする。
服装なんて、その典型だ。
靴はどこ、サングラスは何、シャツの素材は何がよくて、パンツの裾幅や丈、
ジャケットに使われている革の種類にまで、細かい拘りがあるのがバーナビーなら、
虎徹には、そのあたりの拘りは全くない。
サイズがあえば何でもいいというタイプである。
そんな彼がするには、珍しい質問だ。
「行きつけのセレクトショップがあるので、そこで買っています」
なんでそんなことに興味があるのか。
バーナビーは不審に思いながら答えた。
「そこってさ、その…スーツとか、そんなのも売ってるのか」
「一通り全部揃いますよ。小物関係なんかも扱っていますからね」
フォーマルからカジュアル、部屋着の類までコーナーが区切ってあり、
確かな目を持つ店員達が選んだ商品が置かれている。
バーナビーはその店の広報をしているように詳しく説明した。
「ふーん、そっか」
虎徹は、うんうんと頷きながらバーナビーの話を聞いていたが
「ありがとな、参考になった」と言って、気安く肩を叩き、その場から離れていく。
「ちょっと、待って下さい」
バーナビーは慌てて、呼び止めた。
「どうした?」
「どうした?じゃないでしょう。
僕に説明させておいて理由は話さないつもりですか」
「あれ?言ってなかったっけ」
「聞いていません」
さっきの話ではないが、会話にも違いがある。
理性的に筋道の通った話し方を心がけるバーナビーに対し、
虎徹は脈絡がなく、感情を前面にだした話し方をする。
前置きを取っ払い、いきなり本題に入ることもざらにある。
今日もその例に漏れず、のようだ。
虎徹は悪びれもせずに
「悪い、悪い」とちっとも悪いと思っていない様子で、バーナビーの所に戻ってきた。