ビギニング・デイ
『いきますよ、おじさん』
一年振りの再会、初めて出会ったときと、同じシチュエーション。
あの時と似たような口論のあと、バーナビーはそう言った。
同じ言葉でも、そこに籠もる意味は違う。
気を許した者同士の気安さ、一種の言葉遊び。
自分の名前を呼ばれることより、また距離が縮まった感じがした。
派手で騒々しい、
周りからは、どこかハタ迷惑なコンビだった二人が、再び出会った。
それから半年が経つ。
だが、バーナビーはあれから一度も、自分を虎徹とは呼ばない。
「呼ばないよなあ」
毎度お決まりの炒飯を平らげたあと、
缶ビールを開けながら、虎徹は呟やいた。
寝に帰るだけの自分の部屋は、整然とは言いがたい。
ソファの横には新聞やら雑誌が無秩序に重なり、
キッチンの向こうには溜まったビールの空き缶がごみ箱を一杯にしている。
次のごみ出し日には忘れずに出さないと、確実に溢れる量だった。
だがショールームのように、全てきれいに整えられた部屋は、かえって落ち着かない。
第一生活感がない。
まあこんなもんだと思いながら、ビールに口をつける。
何となしに付けたTVは、ちょうど日替わりで流すヒーロー特集の番組だった。
今日はファイヤー・エンブレムことネイサンの特集だ。
『とことん鈍いわね、アンタ』
画面からインタビューの声にかぶって、別の言葉が胸に響いてきた。
バーナビーが自分を「虎徹さん」と呼ばないことも、
自分で気が付いた訳ではない。
ネイサンから指摘されて、そういえば、と自覚した。
言われたのは1月くらい前になる。
普段ならさっさと忘れてしまう、何気ない会話だ。
日常に埋没してしまう。
それなのに、ふとした合間に思い出す虎徹だ。
「鈍い」とは、カリーナやバイソンからも言われる。
だがネイサンの言葉には、それとはまた違う意味が込められている気がする。
呆れを通り越したのか、しみじみと言われた言葉は、どこか意味深だった。
だから自分には珍しく、いつまでも気になっているのか。
手に持ったまま缶の中身を弄んでいると、中身が揺れて音を立てた。
「やべ、温くなっちまう」
タイミング悪く、そこで電話が鳴った。
田舎の母親からだった。